疾患について

中耳疾患

中耳炎・顔面神経外来(毎週金曜日、予約制)

担当医師

萩森 伸一
(専門教授)
平成元年卒
日本耳鼻咽喉科学会専門医
日本耳科学会代議員・国際学術委員・国内学術委員
日本顔面神経学会評議員
稲中 優子
(助教)
平成13年卒
日本耳鼻咽喉科学会専門医
綾仁 悠介
(助教准)
平成23年卒
日本耳鼻咽喉科学会専門医

中耳・伝音外来は、真珠腫性中耳炎(中耳真珠腫)慢性中耳炎滲出性中耳炎耳硬化症顔面神経麻痺などの診断と手術を中心とした診療を行っています。まず初診(毎週月~金、隔週土)で診察・検査を受けた上で中耳・伝音外来の予約をお取りください。


①真珠腫性中耳炎

中耳真珠腫ともいいます。鼓膜が中耳側へ深く引き込まれ、そこで耳垢が堆積することで周囲を破壊していく中耳炎です。小児期の反復・遷延する中耳炎や鼻すすりの関与がいわれています。また先天性の真珠腫もあります。

自覚症状 難聴、耳漏(悪臭や血液が混じることもある)
合併症 顔面神経麻痺(同側の顔の表情がつくり辛くなる)、内耳障害(高度の難聴、耳鳴、めまい、ふらつき)、頭蓋内合併症(髄膜炎、脳膿瘍、静脈血栓症)など
治療法 合併症の予防・治療のためには鼓室形成術が必要になります。
当科での
治療の特色
入院、全身麻酔下に手術を行っています。真珠腫が初期で破壊が小さければ、手術は1回で終了します。しかし、真珠腫性中耳炎は手術の際の取り残しによる再発がみられる疾患です(約20%)。したがって破壊が大きい真珠腫では手術を2回に計画的に分けて手術をします。1回目の手術では真珠腫の摘出に主眼を置き、2回目(1回目手術後半年~1年)の手術では再発がないかチェックを行ったのち、聴力改善手術を同時に行います。これにより遺残性再発(取り残しによる再発)の可能性は数%以下になります。
再発について 前述のように、計画的な段階手術後には遺残性再発は少なくなります。しかし再び鼓膜が陥凹して新たな真珠腫が形成される、再形成再発の危険性はあります(約10%)。当科では再形成再発が少ない手術方法(外耳道削除後軟素材による外耳道再建)を主に採用しています。手術後5年間は定期的に受診していただき、再形成再発がないかチェックします。

②慢性中耳炎

鼓膜に穿孔(あな)がある、難聴、時々耳漏が出るという特徴があります。鼓膜穿孔があれば外耳道側から細菌が中耳に侵入し耳漏が生ずる可能性が高くなります。

自覚症状 難聴、耳漏
治療法 鼓膜穿孔を閉鎖することで、耳漏の停止や聴力の改善が期待されます。
当科での
治療の特色
外耳道から鼓膜の穿孔が全て観察でき、鼓膜穿孔を試しに閉じる検査(パッチテスト)で聴力が改善する場合、鼓膜形成術を行います。これは外耳道内からの手術が主体になります。外耳道から鼓膜穿孔の一部が観察されない場合もしくはパッチテストで聴力が改善しない場合には、耳の後ろを切開する鼓室形成術を行うことになります。聴力改善のためには手術前には耳漏が止まっていることが望ましく、そのための治療を外来で行います。耳漏が停止した状態が数ヶ月持続した時点で手術を行います。様々な治療にも係らず耳漏が停止しない場合には、耳漏停止を主眼に病的な粘膜を切除する手術方法をとっています。

③滲出性中耳炎

中耳腔に滲出液が貯留する中耳炎で、急性中耳炎に続発し小児に多いタイプ(滲出液が粘稠)と成人に多いタイプ(滲出液がさらさらしている)に分けられます。耳管狭窄症や閉鎖不全、アデノイド肥大や副鼻腔炎、上咽頭がんなど様々な原因で生じます。

症状: 軽度の難聴、耳閉感。小児では訴えがない場合があります。
治療法 外来にて通気療法を行いますが、外来治療に抵抗する症例では鼓膜換気チューブ留置術を行います。また原因治療(アデノイド切除術や副鼻腔手術)を併せ行うこともあります。
当科での
治療の特色
当科に紹介がある時点で外来治療にも係らず難治な症例が多く、鼓膜換気チューブ留置術を施行します。成人では外来で手術を行いますが、小児は全身麻酔下で行います。小児の場合、中耳(乳突蜂巣)の発育は主に3歳から始まり10歳ごろまで続きます。滲出性中耳炎の子供たちの乳突蜂巣の発育は遅れる傾向があります。チューブ留置術を行うことで乳突蜂巣発育が促進されることがありますので、手術は積極的に行っております。チューブ抜去時期は乳突蜂巣の発育をみながら決定します。その間スイミングは耳栓およびスイミングキャップを使用した上で行ってもらっています。

④耳硬化症

鼓膜穿孔がなく、また中耳に炎症がないにもかかわらず難聴となる疾患で、鼓膜の振動を内耳(かたつむり)に伝える耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)周囲に変性が生じ、動きが悪くなった結果起こります。日本人は欧米人に比べ手術適応となるまで聴力が低下する例は少なく、白人の100分の1程度の頻度です。最終的な診断は手術の際に実際に耳小骨に触れて、動きが悪いことを確かめることで行います。

自覚症状: 難聴。騒音の中の方が静かなところより聴き取りやすい(Willis錯聴)。
治療法: 変性した耳小骨の動きを回復することは困難です。最も頻度が高いのがアブミ骨周囲の病変なので、アブミ骨の上部構造を切除したあと、アブミ骨の底板に1mm以下の孔を開け、そこに人工ピストンを立てるアブミ骨手術が一般的です。
当科での
治療の特色:
当科では年間に5例程度の手術を行っています。人工ピストンにはテフロンワイヤーピストンを用いています。術後MRIを撮影する際、テフロンワイヤーピストンへの磁場の影響が議論されていますが、現在までのところ通常のMRI検査では検査後難聴などの報告はありません。聴力改善は90%以上の成績です。

⑤顔面神経麻痺

一側の表情がつくりづらくなります。原因はウイルス、外傷、腫瘍、そして不明なものなどがあります。中でも多いものはベル麻痺と呼ばれる原因不明の顔面神経麻痺で、ある日突然発症します。最近の研究でベル麻痺の多くは単純ヘルペスウイルスによって引き起こされることが分かってきました。ハント症候群は水痘ウイルスによって生ずる顔面神経麻痺で、しばしば耳痛や難聴・耳鳴、めまいなどを合併します。外傷性麻痺は頭部外傷によって顔面神経が切断・挫滅されることで生じます。腫瘍性麻痺は顔面神経の腫瘍以外に、顔面神経が通る臓器の腫瘍、例えば耳下腺癌や白血病などで生じます。

自覚症状 顔面運動の低下、水を含むと口から漏れる、耳痛、難聴・耳鳴、めまいなど。
治療法 ベル麻痺やハント症候群では顔面神経がウイルス感染によって腫脹しています。これを改善するためステロイドホルモンを投与します。発症後1週~10日で誘発筋電図検査を行い、高度の麻痺で治りが悪いと予測されれば顔面神経が走行する中耳の骨(顔面神経管)を開放し、神経の絞扼を軽減する手術を行います(顔面神経減荷術)
当科での
治療の特色
当科ではベル麻痺やハント症候群に対しては、ステロイドホルモンと抗ウイルス薬を用いた治療を行います。誘発筋電図検査では従来の方法に比べより簡便で予後(治るか否か)を判定しやすい測定法を開発し、予後が悪いと判断された場合には顔面神経減荷術を行っています。外傷性麻痺については即時麻痺であれば早期に減荷術を、遅発麻痺では筋電図検査を施行した上で治療方針を決定しています。腫瘍性麻痺では原因となった腫瘍の治療を優先して行います。

大阪医大耳鼻科における耳の手術

聴力改善や耳漏停止などで生活の質(Quality of Life; QOL)が飛躍的に向上する耳の手術ですが、手術の危険性や合併症を来たす可能性は皆無ではありません。顔面神経麻痺(術側の顔の表情がつくりづらくなる)、内耳障害(高度の難聴や耳鳴、めまいやふらつき)や髄液漏(頭蓋内にある髄液が中耳へ漏れ出てくる)などが挙げられます。我々はこれらの合併症を来たさないよう細心の注意を払いつつ手術を行っています(2000年以降、鼓室形成術約1700例で術後顔面神経麻痺0例(0%)、高度難聴2例(0.1%)、髄液漏10例(0.6%))。

①鼓室形成術

真珠腫性中耳炎、慢性中耳炎に対して行います。手術時間は1時間半~3時間ほどで、入院期間は2週間弱です。聴力改善のキーポイントとなる耳小骨の再建には、自家皮質骨(耳の周囲の硬い骨)や耳介軟骨を用いています。鼓膜穿孔の閉鎖率は92%(I型)、聴力改善は術式によって変わります(鼓室形成術I型 95%以上、III型 85%、IV型 67%、日本耳科学会2000年案による。下記参照)。平成28年の鼓室形成術数は92件でした。


②鼓膜形成術

聴力検査慢性中耳炎の鼓膜穿孔閉鎖目的で行います。手術時間は1時間ほどで、入院期間は3~5日です。鼓膜穿孔の閉鎖率は83%(小穿孔が残ることがあります)、聴力改善は95%以上です。


参考文献など

著書

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総説・解説

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