疾患について

甲状腺腫瘍

当院では甲状腺腫瘍は「耳鼻咽喉科」が担当しています。
過去12年間における甲状腺腫瘍手術の自験例は約500例です(下表参照)。
甲状腺腫瘍手術は、腫瘍切除に際して、機能温存が必要な手術であることから、多くの経験を有する施設での治療が望まれます。

1.甲状腺の病気

甲状腺の病気は大きく分けると、機能に関わる病気(機能亢進症、機能低下症)と腫瘍性の病気(甲状腺腫瘍〉に分けられます。耳鼻咽喉科で扱う甲状腺の病気は主に後者であり、甲状腺腫瘍を担当しています。前者(機能に関わる病気)は当院では内分泌内科が担当しています。腫瘍に伴って、機能亢進あるいは機能低下を来すことはまれです。


2.甲状腺腫瘍とは

文字通り甲状腺に発生する腫瘍ですが、頻度は極めて高く、全人口の1%程度に腫瘍(結節)があるといわれています。もちろんその多くは良性のものであり、大きさがほとんど変化せず一生放置しておいても問題のないタイプです。しかし、逆に言えば、放置しておいてよいタイプなのか、治療を要するタイプなのかを診断することが重要です。


3.甲状腺腫瘍の分類

[1] 良性腫瘍

  1. 濾胞腺腫
    甲状腺良性腫瘍の代表です。
  2. 腺腫様甲状腺腫
    これは厳密には腫瘍ではありませんが、臨床的には腫瘍として取り扱っています。

[2] 悪性腫瘍(がん)

  1. 乳頭癌
  2. 濾胞癌
  3. 未分化癌
  4. 髄様癌
  5. 悪性リンパ腫

このうち、1. 乳頭癌が90%を占めます。乳頭癌は一般には予後良好なタイプですが、15%程度予後不良タイプがあるといわれています。予後良好タイプの5年生存率は95-100%とされています。


4.甲状腺腫瘍の診断

[1] 視診・触診

まず甲状腺の視診・触診が基本です。
さらに喉頭(声帯)の観察も必須です(反回神経麻痺の有無)。

[2] 超音波エコー、針生検

画像診断は超音波エコーが第一選択です。必要に応じてエコーガイド下に針生検を行います。使用する針は採血針と同じ太さのものであり、侵襲はほとんどありません。たとえば乳頭癌であれば、10mm以上の腫瘍で80-90%の症例で診断がつきます。

[3] 血液検査

甲状腺腫瘍は一般に機能亢進あるいは機能低下を来すことはまれですので、診断上甲状腺ホルモン測定は大きな意義はありません。
しかし、まれに機能亢進あるいは機能低下を来す症例があること、術後機能低下を来すことはあるので術前の値を知ることに意義があること、血清サイログロブリン測定は癌の再発指標になること、以上から特に手術症例では測定すべきと思われます。

[4] CT

手術症例にはCT(造影)を施行します。
MRI、シンチグラムは一般に不要です。


5.手術適応

[1] 良性腫瘍の手術適応

良性腫瘍は一般的には経過観察でもよいと考えられますが、以下の症例は手術適応と考えられます。

  1. 大きさ>40mm
  2. 縦隔に伸展するもの
  3. 呼吸困難・嚥下障害などを伴うもの
  4. 悪性を否定できないもの

[2] 悪性腫瘍の手術適応一乳頭癌

乳頭癌の治療は一般に手術しか方法がありません。
乳頭癌と判明した時点で、手術を勧めています。ただし、一般に乳頭癌は進行がゆっくりであり、日を争うことはありません。

6.手術切除方針一甲状腺乳頭癌の場合

[1] 甲状腺の切除

基本的には甲状腺半切(甲状腺は蝶蝶型をしているので、その半分を切除する)を施行しています。甲状腺全摘(甲状腺を全部とる)の適応は、1)腫瘍が両葉に多発生のあるもの 2)被膜外に大きく浸潤しているもの 3)遠隔転移(肺転移など)を認めるものです。甲状腺切除では、反回神経温存が原則です。ただし術前から反回神経麻痺(反回神経に癌が浸潤している)を来しているものは切除します。術前反回神経麻痺がなくても、術中に癌の神経浸潤が認められ、切除の対象となる症例が数%あります。また、術中の神経剥離操作で、術後一時的反回神経麻痺を起こす症例が約5%あります。一時麻痺は数ケ月以内に回復することがほとんどです。反回神経麻痺の症状は嗄声(声がれ)です。

[2] 頚部郭清術(リンパ節の郭清)

甲状腺乳頭癌は、比較的リンパ節に転移しやすい癌といわれています。一番転移しやすい部位は甲状腺周囲(特に気管周囲)であり、次に側頸部(首の側方)です。その他部位のリンパ節に転移することはまれです。
転移の有無は超音波エコーによって行います(CTも補助診断に用いる)。

  1. 診断上リンパ節転移を認めない場合
    および側頚部にリンパ節転移を認めない場合
    甲状腺周囲のみの郭清を行います。皮膚切開は甲状腺の切除の切開で行うことができ、術後機能障害をきたすことはまずありません。
  2. 側頚部にリンパ節転移を認める場合
    甲状腺周囲とともに、側頚部の郭清を行います。極力機能を温存する手術を行っています。

7.甲状腺腫瘍の治療(当科の実績)