業績

研究テーマ

❶ 頭頸部癌に関する研究 

河田 了、 東野正明、 西川周治、栗山達朗

 以前から、アラキドン酸代謝のkey enzymeであるシクロキシゲナーゼ(COX)が癌の増殖、転移に関わっていることが言われている。そこで頭頸部癌におけるアラキドン酸代謝について、生化学的、免疫組織学的さらに分子生物学的アプローチを用いて、特に転移との関連に注目している。ヒト癌組織を用いた研究では、アラキドン酸代謝産物もなかで、COXおよびPGE2に着目し、COX-2PGE合成酵素が癌の増殖転移に関わっていることを見い出した。

しかもCOX-2PGE合成酵素は発現する部位が類似しており、COX-2PGE合成酵素、PGE2は一つの系として連関していることが示唆された。将来的にCOX-2PGE合成酵素阻害剤が癌の化学予防としての可能性が期待できる。

 

 

❷ 顔面神経麻痺発症機序の基礎研究・予後評価の臨床研究

萩森伸一、綾仁 悠介、稲中優子、尾崎 昭子

 顔面神経麻痺は第7脳神経の顔面神経の機能障害で、顔面の表情筋運動低下を主症状とする。突然に発症し、その後約1週間は進行するので、患者の心理的負担は相当に大きい。近年の研究で、その発症に単純ヘルペス(HSV)や帯状疱疹ウイルス(VZV)などのヘルペスウイルスが深く関与することが明らかになった。幼児期・小児期に感染したこれらのウイルスが顔面神経麻痺に潜伏感染し、その後なんらかの刺激によって急速に増殖・再活性化を来たして神経炎が生ずる。

 ウイルス性顔面神経麻痺は大きくBell麻痺とRamsay-Hunt症候群(Hunt症候群)に分けられる。特にVZVによるHunt症候群はめまいや難聴を伴う重篤な麻痺を来たし、40%は治癒しないなど予後は不良である。当グループではこのHunt症候群の発症メカニズム解明の研究を行っている。Bell麻痺患者とHunt症候群患者の血液から単核球を分離し、それをVZV抗原とともに培養して産生されるインターフェロン(IFN)を指標とした細胞性免疫能を測定した結果、Hunt症候群では発症初期においてBell麻痺に比べてVZV特異的細胞性免疫能の低下がみられた。このことがHunt症候群発症に関わっている可能性があり、2014年から開始された水痘ワクチンの定期接種によってHunt症候群が大きく減少することが期待される。本研究は神戸大学医学部臨床ウイルス学教室との共同研究である。

 また電気生理学的手法を用いた顔面神経麻痺の正確な予後判定方法の開発を2004年から継続して行っている。

 

 

❸ 鼻アレルギー、鼻副鼻腔炎の研究

寺田哲也、乾 崇樹、吉田卓也

 鼻アレルギーに対する根治療法としての免疫療法についての研究を中心に行っている。

 免疫療法における抗原の投与ルートとして皮下注射と舌下投与が主に用いられているが、抗原を消化管に投与する経口免疫寛容、微量の抗原を鼻粘膜に投与する経鼻免疫寛容、経皮的に抗原を投与する経皮免疫寛容、エコーガイド下にリンパ節に微量の抗原を投与する経リンパ節免疫療法などの研究を行っている。

 その他、難治性の好酸球性副鼻腔炎を鼻副鼻腔局所の炎症ととらえるのでは無く、unified airway diseaseとして上下気道合わせた気道炎症ととらえ、気道から産生されるNO値をもとに上気道と下気道の関連性を研究している。