ご挨拶
萩森 伸一
大阪医科薬科大学は1927年(昭和2年)本邦初の5年制医学専門学校として設置されました。その翌年の1928年、耳鼻咽喉科学教室が独立し、本年(2024年)で97年目を迎えます。初代山崎春三教授から、武田一雄教授、高橋宏明教授、竹中洋教授、河田了教授へと伝統が引き継がれ、小生が2024年4月から第6代教授として教室を担当しています。
さて、耳鼻咽喉科と言えば文字通り「耳」「鼻」「のど」と比較的狭い範囲を担当する科を想像されると思いますが、実は首から上で脳と眼球を除く広い領域の診察を担当しています。そしてその内容は、難聴、めまい、アレルギーなどの内科的分野と中耳炎、副鼻腔炎、扁桃炎、頭頸部腫瘍などの手術を行う外科的分野からなっています。耳鼻咽喉科の最大の特徴は、生活を豊かにする感覚に関する臓器を扱っているという点です。すなわち聴く(聴覚)、嗅ぐ(嗅覚)、味わう(味覚)、バランスを保つ(平衡覚)、さらにはしゃべる(構音・発声)、食べる・飲み込む(咀嚼・嚥下)といった、生活を豊かに過ごすたもの機能から生命の根幹に関わる機能まで、とても重要な役割を担う臓器の疾患の診断と治療を行う科です。
大学病院における診療は、地域における最終病院としての役割を担い、したがって高度で安全かつ良質な医療を提供することが大切です。当教室では以前より耳鼻咽喉科・頭頸部外科のなかでの分野別の診療体制を整備し、各分野ともエビデンスや診療ガイドラインを重視した医療の提供を行ってきました。研究面では臨床研究を重視し、多くの患者さんから学んだデータを詳細に解析し、臨床の現場に還元することを継続してきました。また比較的小さいが故に小回りの利く大学である利点を生かし、基礎教室とコラボしながら臨床に直結する基礎研究にも取り組んでいます。そして「良医を育てる」という医科大学・大学病院の使命、そして国民の負託に応えるべく、医学部生、臨床研修医、耳鼻咽喉科専攻医の教育にも力を入れています。
わが国の医師数は現在約30万人ですが、耳鼻咽喉科医はその4%程度に過ぎません。特に耳鼻咽喉科勤務医の数は少なく,病床数の多い病院でさえ耳鼻咽喉科の常勤医が不在であることが珍しくなく、この傾向は今年始まった医師の働き方改革でさらに強まっています。耳鼻咽喉科にとって厳しい環境の下、当教室員は一丸となって患者さんの心配な面持ちが笑顔に変わるよう、そして常に「大阪医科薬科大学の耳鼻咽喉科・頭頸部外科で治療を受けて良かった」と思っていただける診療を目指して、日々努力してまいります。
診療概要・特色
診療概要
初診は、月曜日から土曜日(奇数週)まで行っています。初診医は受診当日に画像診断や病理学的検査も含めて可能な限り検査を行い、診断した後、各専門外来に振り分けています。専門外来は、難聴、顔面神経、腫瘍、甲状腺、音声・喉頭、幼児難聴、鼻副鼻腔、アレルギー、めまい、中耳、補聴器、人工内耳外来などがあり、耳鼻咽喉科領域をほぼ網羅しています。各専門外来では、それぞれのチーフを中心に専門的診断と高度な治療を行っています。一般再診も毎日行っていますが、症状が安定した患者さんについては可能な限り近隣の病院や耳鼻咽喉科クリニックへ紹介し、受診していただいています。
入院患者については、主治医および担当医がチームを組んで担当し、さらにそれぞれの症例に指導医が付きます。指導医は耳鼻咽喉科の各分野を専門とする医師が担当しています。入院当日の朝、外来にて科長による入院診を行い、診断・方針や患者さんの健康状態に問題がないか、チェックしています。さらに毎火曜日の午後に、教室員全員で全ての入院前患者さんならびに次週の入院予定の患者さんについての検討会を行っています。また火曜日の朝7時30分から手術に関する検討会を行い、その前1週間に行われた手術および手術予定の患者さんの病状を検討しています。手術は毎週月曜日および木曜日の午前および午後に行っています。手術に際し、主治医および担当医に必ず指導医がつき、指導医の指導のもとに手術を実施しています。病棟の回診は毎週火曜日に医長が、木曜日には科長が行っています。
科の特徴
- 以前から病診連携に力を入れており、他院からの患者紹介率は90%を越えています。2001年に他科に先駆けて紹介患者予約診察を開始し、現在に至っています。
- 耳鼻咽喉科疾患全般に対して対応できますが、大学病院である以上、より高度な医療が求められています。専門外来の充実を図り、より専門性の高い診療を行う体制を敷き、一貫した方針のもとで治療が行えるようにしています。専門外来で入院の治療方針を決定し、手術をはじめ入院中は専門外来の責任者が指導医となります。さらに退院後のフォローアップも専門外来で行っています。
- 入院前検討会、入院診、術後検討会、さらには科長回診・医長回診を行い、患者さんの病態を何重にもチェックできる体制を整えています。
- システムの効率化、クリニカルパスの導入、治療スケジュールの見直しを行い、入院患者さんの平均在院日数は10日ほどです。
- 耳、鼻、頭頸部腫瘍、喉頭をはじめとした手術を、年間約1000件施行しています。その件数は、全国大学附属病院の中でも上位に位置しています。
- 他科との良好な協力関係により、高い水準の医療を実現しています。特に頭頸部領域の顔の拡大・再建手術では、消化器外科や形成外科、脳外科などと密接に連携して診断および治療にあたっています。
- 他のクリニックや病院との連携には以前より力をいれており、当科が主催する様々な研究会・勉強会を通じて交流を深めています。大学病院からこれらのクリニック、病院への患者さんの逆紹介も積極的に推進しています。